《THE VEIL OF NIGHT》の続きって事で・・・(^^;)


EYE IN THE SKY

その時私は、自分が変わってしまった事に気がついた

もう今までの私ではない

世界が違って見える
そう…喩えて言うなら、モノクロだった世界がフルカラーになる様に

全てが違って見えた・・・・・・

もう今までの私では居られないのだと・・・

悟った・・・・


                   ◇ ◇ ◇

「アンダーソン君」

私ではない私の声が彼の名を呼び、広場にこだまする。
この『世界』から人類を救う救世主の、覚醒する前の名で。
すでに何人にも増殖した私の望みは、その彼を抹殺することだ。
しかし彼は圧倒的な強さを持ってしまっていた。
100人を越そうという私と、対等に渡り合えるほどに。
これが『人』の能力というものか。
ある問題を解決するのに、あらゆる可能性について平等に、無意味な探索まで遂行するコンピューターと、ここが本質的な部分であるという洞察が働く人間の差異。
人間の何気ない能力は、数億通りの計算に匹敵するという事なのだろうか?

そんな、戦いの最中の思考は、突然断ち切られた。

「スミス!」
殴りかかった腕を逆に捕らえられ、他の私の群れる中を、そのまま引き摺られる様に走り抜ける。
目的地は屋内に到るドア。
今にも壊れそうなドアノブを握った彼の身体から、一瞬、辺りの全てが歪む程のパワーが迸るのがわかる。
開いたドアの中に私を押し込み、追いすがる他の私の目の前で、彼はドアを閉じた。

延々と、ただドアの並ぶ無機質な回廊には、彼と私以外気配すら無い。
彼が全てのドアを抑えてしまったらしいと気付き、知らず唇に浮かんだのは、苦笑だったのか?自嘲だったのか?
「何を笑う?」
「さてね・・・私にもわからんよ」
「そうか・・・」
吐息のような囁きと共に、彼の手が私の肩を掴んで壁に押し付ける。
当たり前のように彼の顔が近づき、お互いのサングラスが触れた音がやはり無機質に響く中。
逃げる事も、避ける事も出来ぬまま、重なってきた彼の唇を受け入れた。
「何のマネだ?」
私の問いに、彼は少し困ったような顔をした。
「あんたは前に・・・俺を救世主の重責から解放してやると言ったじゃないか」
「ああ・・・」
そういえばそんな事を言った事があった。しかしそれを覚えているとは・・・
「そんなに辛いなら、辞めてしまえばいいとも言ったはずだ」
「それができれば苦労はしないさ・・・」
彼はわかるだろう?と言う様に肩を竦めてみせた。
「別に私で無くてもいいだろう?疲労困憊の救世主サマなら、慰めてくれる者はいくらでも居るだろうに」
たとえば・・・と、いつも行動を共にしている女ハッカーの名をあげる。
彼はそれに、ため息とも笑みともつかぬ声で応えた。
「彼女だからこそ、見せられない姿もある」
「勝手な言い草だな」
「確かに」
そう言いながらも、さらに唇を重ねてきた。
「今日は銃を持ってないのか?」
スーツの中に滑り込ませた手で、脇腹の辺りを探りながら訊いてくる。
「君に銃が有効かね?」
「いいや」
首筋に唇が這うのがわかる。
「アンダーソン君・・・」
身を捩り、身体を離す私を、彼は訝しげに見た。
「何?」
「こういうシチュエーションでの行為が、君の嗜好に合うのかね?」
ただドアの立ち並ぶ無機質な回廊。それを目線で示す。
彼は一瞬、呆気にとられたような表情をしたあと、私を睨んだ。
その顔は赤い。
彼は息を吐くと、私を一つのドアの前に導いた。
カチャリ・・・とキーも無いのにロックが外れる音がしてドアが開く。
中にはライティングデスクとセミダブルのベッド。ごく一般的なシティホテルらしき部屋だった。
いかにもな場所じゃないのが、彼らしいというところか。
「いいのかね?バックドアからでてしまって。君を<サポート>しているオペレータに、全て知られてしまうぞ」
早々と私の身体をベッドに押し倒し、サングラスを奪った彼は、そのまま私の顔を覗きこんでいた。、
「大丈夫だ。ここはさっきの場所から、かなり離れてる。こちらからコンタクトしない限り、そう簡単には見つからない」
「なるほど」
多分に揶揄を含んだ呟きを無視するように、指が私の頬をなぞってゆく。
そんな彼のサングラスを私が取り去ると、それが合図だったように、再び唇が重なってきた。
手がネクタイを緩め解き、シャツのボタンを外すと、後を追うように唇が触れてくる。
しかし彼自身は、その身にまとった襟の高いコートを脱ごうとはしない。その事を指摘すると、彼は微かに笑みを浮かべた。
「別にあんたと・・・SEXがしたいワケじゃないんだ。ただ・・・」
「ただ・・・?何だね。アンダーソン君?」
「他人には遣りたくない・・・」
そう呟いて、私の首筋に唇で痕を残した。


どれぐらい時間が経ったのか。
相変わらず彼は私をベッドの上に組み敷いたまま、それでも動きは止まっていた。
私の手は彼を抱き、その髪を優しく撫ぜている。
疲れきった救世主の。
「スミス・・・」
「何かね?」
「この世界が終わったら・・・あんたも居なくなるのか?」
その問いに答える義務は、私には無い。
だから替わりに別の事を耳元で囁いた。
「救世主が・・・人類を救えれば」
「え?」
戸惑う気配に私は先を続ける。
「現在のこの地球に、君たち人間を養えるだけの余力は無い。解放され、目覚めたところで、飢えて死んでゆくのは必定だ」
「・・・・・・」
「それを回避するために、この世界=システムを創ったとは思わないかね?」
私の言葉に、彼が身を固くするのがわかった。
「そのための救世主。全人類存続のための犠牲であり、人類を生かすためのシステムへの供物として」
「どういう意味だ?」
「つまり、人間の事は人間が一番知っているという事だよ。だからシステムを制御する部分をマシンではなく、人間にすれば完璧だとは思わないかね?」
「それは・・・たしかに理屈ではそうだ。しかし・・・」
「そう。誰しも進んで我が身を差し出したりはしないものだ。だからだよ、アンダーソン君!救世主が必要なんだ。人類のために犠牲になってくれる救世主がね」
彼の返事は無い。
「救世主とは、人類存続のための生贄なのだよ・・・この世界、マトリクスは、そのための育成プログラムだとしたら?」
彼は素早い動きで私から身を離し、睨みつけた。
「今までの戦いが、全部ウソだと・・・?」
「何怖い顔してるんだ、アンダーソン君。信じたのか?」
「あんたはプログラムだ。嘘はつけないはずだ」
「誰が決めたのかね?そんな事・・・」


彼が出て行ったドアを一瞥して、私は乱された衣類を直した。
身体のそこかしこに、彼のつけた痕が残っている。
彼はこれを、この世界が無くなっても、私を見つけるためのマーキングだと言っていた。
「馬鹿馬鹿しい・・・」
彼が忘れていったサングラスに向かって呟く。
「君は私に何を望んでいる?アンダーソン君」
慰めを求めるというななら、それに乗じての誘惑もできる。
<エージェント>だった私には、テロリスト達を裏切らせるために誘惑するスキルがある。
常時起動はしてないものだが、必要に応じて最大限の効力を発揮できようになっている。
それこそ甘言から、ベッド・テクニックまで。
他の私にはコピーされてない機能だ。
常に彼が、多くの<私>の中から私を選別できる事は喜ばしい。
しかし。
「私は君に、そのスキルを最大限駆使しただろうか?」
何故か私の中に残る疑問。
彼は私を他人には遣りたくないと言った。その言葉がエコーする。
「それは無い・・・」
知らず、口をついて出た言葉。
そう。他人など居ない。
この世界は、全て私になるのだから。

彼方上空から遥か地上を見下ろすように、問題の本質的な構造というものを一気に把握する事が出来ない以上、この世界を私だけで埋め尽くしてやろう。
人の能力の<質>に、膨大な<量>で対抗するのだ。
だから・・・

「安心したまえ・・・アンダーソン君」
ドアを閉めながら、去り行く部屋のベッドの上に残された彼のサングラスに囁いた。



-end-

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03,09,28>




うーん・・・ピロー・トーク(笑)
こー言いたい事はい〜っぱい有るんだけど、
如何せん力不足?
自分の中でまだ良く消化されてないのねん。きっと・・・
誤字脱字がイパーイの予感〜!(しくしく)

参考文献<となりのアンドロイド/黒崎政男著>NHK出版